愛知県・名古屋市でクリニックの開業を検討している先生へ、令和7年の最新調査で見た勤務医の労働時間と、日本医師会の調査で見た開業医の働き方、地域の医師数・診療所数をもとに、開業医のワークライフバランスの実態と、建物の設計でゆとりを生む工夫を解説します。
当直明けの外来、休日のオンコール、終わらない書類仕事。
日本医師会の調査では、開業して5年以内の院長の31.7%が、開業の動機に「勤務医時代の過重労働に疲れたため」を挙げていました(2009年)。
私たち阿部建設は、明治38年の創業以来、名古屋を拠点に建築に携わり、これまで30棟を超える医院・クリニックを手がけてきました。開業のご相談では、理想の医療とあわせて「この先も無理なく診療を続けたい」というお話を伺うこともあります。
本コラムでは、医師のワークライフバランスについて、厚生労働省と日本医師会の調査データ、そして愛知・名古屋で医院・クリニックの建築に携わってきた経験をもとにお話しします。
この記事の結論
- 医師の働き方改革とは、2024年4月から勤務医の時間外・休日労働に上限(原則年960時間)を設けた制度です。週60時間以上働く病院の常勤勤務医は15.0%まで減りましたが(令和7年調査)、外科・救急科・産婦人科では今も2割を超えています。
- 開業医は診療時間や休診日を自分で決められます。ただし日本医師会の調査では、開業後に労働時間が「軽減した」院長が35.6%だった一方、「過重になった」院長も41.6%いました。開業すれば必ずゆとりが生まれるわけではありません。
- ゆとりを生むカギは、「短い診療時間でも成り立つ立地と事業計画」と「院長とスタッフが効率よく働ける建物」をそろえることです。
医師の働き方改革とは?2024年4月から始まった時間外労働の上限規制
医師の働き方改革とは、2024年4月から、病院などで働く勤務医の時間外・休日労働に上限を設けた制度です。上限は、医師が働く医療機関の役割に応じて3つの水準に分かれています。
| 水準 | 対象 | 時間外・休日労働の上限(年) |
|---|---|---|
| A水準 | すべての勤務医の原則 | 960時間 |
| B水準・連携B水準 | 地域医療の確保のため、都道府県から指定を受けた医療機関の医師 | 1,860時間 |
| C-1水準・C-2水準 | 研修医・専攻医や、高度な技能を身につける医師 | 1,860時間 |
あわせて、勤務と勤務の間に休息時間を確保する「勤務間インターバル」や、時間外労働が月100時間以上になる見込みの医師への面接指導も始まりました。
年960時間は、1か月あたり平均80時間の時間外労働にあたります。なお、この上限規制は雇われて働く勤務医が対象で、自ら経営する開業医(院長)には直接は適用されません。開業医の働く時間は、院長自身が決めることになります。
データで見る勤務医の長時間労働(令和7年調査)
厚生労働省が2025年10月に行った調査では、週60時間以上(時間外・休日労働が年960時間相当以上)働く病院の常勤勤務医の割合は15.0%でした。平成28年の39.2%から、調査のたびに着実に減っています。
| 調査年 | 週60時間以上働く病院の常勤勤務医の割合 |
|---|---|
| 平成28年(2016年) | 39.2% |
| 令和元年(2019年) | 37.8% |
| 令和4年(2022年) | 21.2% |
| 令和7年(2025年) | 15.0% |
ワークライフバランスは診療科によって差がある
同じ調査で、週60時間以上働く医師の割合を診療科別に見ると、次のとおりです。
| 診療科 | 週60時間以上働く医師の割合(令和7年) |
|---|---|
| 外科 | 25.1% |
| 救急科 | 23.7% |
| 産婦人科 | 22.8% |
| 脳神経外科 | 18.7% |
| 小児科 | 16.0% |
| 整形外科 | 15.0% |
| 内科 | 13.6% |
| 耳鼻咽喉科 | 13.0% |
| 精神科 | 8.1% |
| 眼科 | 7.7% |
| 皮膚科 | 5.3% |
外科・救急科・産婦人科では4〜5人に1人が週60時間以上働いている一方、皮膚科・眼科・精神科は1割未満で、比較的ゆとりを持って働きやすい診療科といえます。緊急手術や分娩、救急対応のある診療科ほど、当直や呼び出しの負担が大きくなりやすいことがわかります(いずれも病院で働く医師のデータです)。
子育てとの両立も大きな課題
医療施設で働く医師のうち女性は24.4%(2024年)で、約4人に1人です。出産・子育てと、当直を含む勤務との両立は、男女を問わず多くの先生が向き合う課題です。
出典:厚生労働省「(参考資料)医師の働き方改革の現状について」令和8年度 医師の働き方改革の推進等に関する検討会(2026年9月10日)※令和7年度「医師の勤務実態把握のための調査事業」
愛知・名古屋の医師数・診療所数から見る開業の環境
| 項目 | 愛知県 | 全国 |
|---|---|---|
| 医療施設で働く医師(人口10万人あたり・2024年) | 243.0人(47都道府県中37位) | 267.4人 |
| 一般診療所の数(2025年) | 5,781施設 | 105,521施設 |
| 一般診療所の5年間の増減(2020→2025年) | 318施設増(+5.8%) | 2,909施設増(+2.8%) |
| 一般診療所(人口10万人あたり・2025年) | 77.6施設 | 85.8施設 |
愛知県の医師数は全国の約0.9倍ですが、名古屋市に限ると人口10万人あたり333.2人(2024年)と全国を大きく上回ります。市内は医療機関が多く、郊外は比較的少ないという差があります。また、県内の診療所はこの5年で318施設増え、増加率(5.8%)は全国の約2倍でした。
競合が多い場所ほど、患者さんを集めるために診療時間を延ばしたくなります。働き方を守るには、開業地ごとに競合の数と見込める患者数を確かめ、「診療時間を延ばさなくても成り立つ場所」を選ぶことが出発点になります。
勤務医と開業医、ワークライフバランスはどう違う?
勤務医と開業医のいちばんの違いは、開業医は「働く時間を自分で決められる」ことです。一方で、経営者としての仕事と責任が加わります。
| 項目 | 勤務医 | 開業医 |
|---|---|---|
| 診療時間・休日 | 病院が決める | 自分で決められる |
| 当直・夜間の呼び出し | 診療科によっては多い | 原則なし(在宅医療を行う場合は対応が必要) |
| 休みの取り方 | 交代の医師がいれば取りやすい | 計画的に取れるが、休む日は休診になる |
| 仕事の範囲 | 診療が中心 | 診療に加え、経営・採用・労務・お金の管理 |
| 収入 | 給与として安定 | 経営の結果しだいで増減する |
| 通勤 | 勤務先しだい | 立地を自分で選べる(自宅併設も可能) |
データで見る開業医の働き方:当直は減るが、経営の仕事が増える
開業医の働き方を全国規模で調べた公的な統計は多くありません。参考になるのが、日本医師会が開業医(診療所・病院の開設者)1,984人に行った調査(2009年)です。開業後、勤務医や研究者だった時代と比べて労働時間がどう変わったかを聞いた結果は次のとおりでした。
| 開業後の労働時間(勤務医時代との比較) | 割合 |
|---|---|
| かなり軽減 | 16.8% |
| やや軽減 | 18.8% |
| 同じぐらい | 17.5% |
| やや過重 | 21.2% |
| かなり過重 | 20.4% |
| どちらともいえない・無回答 | 5.2% |
同じ調査で「勤務医時代のほうが負担だった」ことの1位は「当直」(44.5%)でした。反対に「開業してからのほうが負担」として「夜間・休日診療」を挙げた院長は16.0%にとどまり、当直・夜間の負担は開業で軽くなったと感じる院長が多いことがわかります。
一方、「開業してからのほうが負担」の上位は「スタッフの採用」(65.1%)と「レセプト(診療報酬の請求書類)の作成・チェック」(52.2%)でした。当直の負担が軽くなる代わりに、経営の仕事が加わるということです。調査から年数がたっていますが、開業後の働き方は開業前の準備しだいで変わることを示すデータです。
出典:日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」2009年9月
開業医は休みが多い?少ない?
同じ調査で、無床診療所の院長が診療する日数は週平均4.95日でした。開業医は、休診日や夏季・年末年始の休みを自分で計画できます。一方で、院長が休む日はクリニックも休診になり、その日の収入もなくなります。「休みは取れるが、休むかどうかを自分で判断する」のが開業医の休みの特徴です。
当直・オンコールは原則なくなる
外来中心のクリニックであれば、夜間や休日の呼び出しは原則としてありません。ただし、在宅医療(訪問診療)を行う場合は24時間の連絡体制が求められるほか、地域の医師会の休日当番などを担当することもあります。(関連コラム:医師が独立を決断する5つの理由と開業を阻む3つの壁)
開業してもワークライフバランスが崩れる3つの落とし穴
日本医師会の調査で開業後の負担として挙がった項目をもとにすると、ゆとりが崩れる原因は次の3つに整理できます。
- 売上を確保するために、診療時間や診療日を延ばしてしまう
- スタッフの採用やレセプトの確認など、診療以外の仕事が院長に集中する
- 建物の使い勝手が悪く、移動や待ち時間のムダが毎日積み重なる
いずれも開業前の準備で防げます。希望の診療時間で経営が成り立つかは事業計画で確かめ、建物は一度つくると簡単には変えられないため、設計の段階で工夫しておくことが欠かせません。(関連コラム:クリニック開業資金はいくら必要?)(関連コラム:クリニック開業の失敗リスクと回避方法)
建物の設計でワークライフバランスを叶える5つの工夫
ここでは、医院・クリニック建築の現場で私たちが実際にご提案している5つの工夫をご紹介します。
工夫①:短い診療時間でも成り立つ立地を選ぶ
ワークライフバランスの土台は、無理のない診療時間で経営が成り立つことです。開業地の周辺にどれくらいの患者さんが見込めるかを調べる「診療圏調査」で、数字を確かめてから土地を決めましょう。
愛知・名古屋エリアは、駅に近い名古屋市内の都市部と、車で通院する患者さんが中心の郊外とで、患者さんの動き方が大きく異なります。車社会の愛知では、駐車場の台数や幹線道路からの入りやすさも患者数を左右します。阿部建設では、土地探しの段階から診療圏調査を行い、「この場所なら希望の診療時間でも採算が合うか」を確認したうえで計画を進めます。市街化調整区域(原則として建物を建てにくい区域)でのクリニック建築にも対応しています。
工夫②:スタッフと患者さんの動線を分ける
「動線」とは、人が建物の中を移動する道すじのことです。患者さんが通る廊下とは別にスタッフ専用の通路(バックヤード)を設けると、受付・処置室・診察室の行き来が短くなり、1日の移動のムダが減ります。Web予約や自動精算機の置き場所・配線も設計の段階で計画しておくと、受付の混雑と診療後の締め作業が軽くなります。(関連コラム:クリニック設計で押さえたい6つのポイント)
工夫③:院長室とスタッフ休憩室で「休める場所」をつくる
昼休みにきちんと休めるかどうかは、午後の診療の質を左右します。院長が一人になれる院長室と、スタッフがくつろげる休憩室は、院長の負担軽減とスタッフの定着につながります。開業してからのほうが負担になったことの1位が「スタッフの採用」だったように、スタッフが長く働いてくれれば、院長の手間は大きく減ります。
工夫④:将来の「医師2人体制」に備えて診察室を用意する
開業医が休みにくい最大の理由は、代わりの医師がいないことです。最初は1人で開業する場合も、非常勤医師や副院長を迎えられる2つ目の診察室を用意しておく(または増やせる設計にしておく)と、休診日を増やさずに院長が休めるようになります。
工夫⑤:自宅との距離を考える(医院併用住宅という選択肢)
車での移動が中心の愛知では、自宅からクリニックまでの通勤時間も大切な検討材料です。郊外であれば、クリニックと住まいを一つにする「医院併用住宅」で、通勤時間そのものをなくすこともできます。その場合は、クリニックと住まいの玄関や動線を分け、仕事と生活を切り替えられる間取りにしましょう。スタッフの多くも車で通勤するため、スタッフ用の駐車場もあわせて計画しておくと安心です。
阿部建設が手がけた医院の院長の声
すぎやま内科(名古屋市):60歳以降の働き方を見据えて開業
杉山理事長は、50代を迎えた頃に60歳以降の働き方・暮らし方を見据え、地域に根ざした医療に携わろうと開業を決めたそうです。開業時と移転時の2回、阿部建設が設計・施工を担当しました。現在は電子カルテの刷新などで、スタッフが有給休暇を含めて休みを取りやすい仕組みづくりを進めています。(院長インタビュー(すぎやま内科))
グランツ歯科室(稲沢市):「働きやすく、掃除がしやすい」建物
院長からのご要望は「働きやすく、掃除がしやすいこと」でした。スタッフと患者さんの動線を分け、裏方のスペースを広く取っています。竣工から10年ほどたった今も「後悔はまったくありません」とのことです。スタッフのシフトを8時30分・9時・9時30分始まりと細かく設定し、生活リズムに合わせて働けるようにするなど運営面でも働きやすさを重視し、開院時6人だったスタッフは19人に増えました。(院長インタビュー(グランツ歯科室))
竹尾皮ふ科クリニック:スタッフが動き回らなくて済む工夫
患者さんとスタッフの動線が診察室以外で交わらないレイアウトにしました。検尿用にトイレへ小窓を設け、スタッフがトイレまで行かずに検体を受け取れるようにするなど、毎日の小さな移動を減らす工夫を取り入れています。(院長インタビュー(竹尾皮ふ科クリニック))
よくある質問
Q. 医師のワークライフバランスは、勤務医と開業医のどちらが良いですか?
A. 働く時間を自分で決められる点では、開業医のほうがワークライフバランスを設計しやすい働き方です。日本医師会の調査でも、「勤務医時代のほうが負担だった」ことの1位は「当直」でした。ただし、開業後に労働時間が「過重になった」院長も約4割いるため、事業計画と建物の工夫をそろえることが前提になります。
Q. 開業医の休みは多いですか?
A. 無床診療所の院長の診療日数は週平均4.95日です(日本医師会、2009年)。休診日は自分で決められますが、院長が休む日は休診になり、その日の収入もなくなります。2つ目の診察室を用意して非常勤医師を迎えられるようにしておくと、休診を増やさずに休みを取りやすくなります。
Q. 医師の働き方改革は開業医にも適用されますか?
A. 時間外・休日労働の上限規制は雇われて働く勤務医が対象で、自ら経営する院長には直接は適用されません。ただし、クリニックで勤務医を雇う場合は、その医師に上限規制が適用されます。
Q. 子育てをしながらクリニックを開業できますか?
A. できます。送り迎えに合わせた診療開始時間や、午後休診の曜日を設けるなど、家庭に合わせた診療時間を組めます。その診療時間で経営が成り立つかを、開業前に診療圏調査と事業計画で確かめておくことが大切です。
Q. 愛知・名古屋でワークライフバランスを重視してクリニックを開業するには?
A. 名古屋市内は医療機関が多く、郊外は比較的少ないなど、場所によって競合の状況が大きく違います。診療圏調査で「診療時間を延ばさなくても成り立つ場所」かを確かめたうえで、十分な駐車場、スタッフ専用の動線、院長室・休憩室など、毎日の働きやすさにつながる設計を組み合わせることが大切です。
まとめ
- 医師の働き方改革で、週60時間以上働く病院の常勤勤務医は15.0%まで減りましたが、外科・救急科・産婦人科では今も2割を超えています(令和7年調査)。
- 開業すると当直・夜間の負担は軽くなる一方、採用やレセプトなど経営の仕事が加わり、労働時間が「過重になった」院長も約4割います(日本医師会、2009年)。
- ゆとりある働き方は、立地選び・事業計画・建物の設計をそろえてはじめて実現できます。
阿部建設では、愛知・名古屋エリアで、働き方にゆとりのあるクリニック開業を検討している先生のご相談を承っています。
- 「今の働き方を見直したいが、開業して本当にゆとりが生まれるか知りたい」
- 「希望の診療時間で経営が成り立つ立地を探したい」
- 「院長もスタッフも働きやすいクリニックを建てたい」
このようなお悩みがございましたら、計画が具体的に決まる前の段階でも、お気軽にご相談ください。
この記事について
執筆:ドクター建築ラボ@NAGOYA(阿部建設)。明治38年(1905年)創業、医院・クリニックの建築実績30棟超。
監修:阿部建設株式会社 代表取締役社長 阿部一雄(一級建築士・一級建築施工管理技士)
主な参考資料:厚生労働省「医師の働き方改革の現状について」(2026年9月)、厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和2年・令和6年)、厚生労働省「医療施設(動態)調査」(令和2年・令和7年)、日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」(2009年)
お問い合わせ・会社情報
阿部建設株式会社
愛知・名古屋の医療建築・住宅設計施工のスペシャリスト。先生の夢に寄り添い、経営を支える建物をご提案します。
本社所在地:〒462-0841 愛知県名古屋市北区黒川本通4-25
電話番号:052-911-6311
事業内容:医療施設建築・設計・施工、住宅設計・施工、リフォーム・リノベーション、バリアフリー、不動産
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